​Kalab Mixed Myanmar #1

ミャンマーの民族音楽を国内外のアーティスト達がリミックス。プロデューサーShhhhhの呼びかけに、南米Shika Shika からBarrio Lindo、El Buho、Andiotto、Bardaが、東南アジアからはAsa Tone, PRABUMI、そして日本からはOORUTAICHI, KOM_IとChurasima Navigatorが参加。数百年の歳月をかけて積み重なってきた摩訶不思議なミャンマー音楽を、今を生きる世界中のリミキサーが独自に解釈し新たな地平を示す。長い時を跨いだ壮大なリミックス集が出来上がりました、必聴です!

​リミックス集の制作を辿って
インタヴュー・文/大石始
ミャンマーの伝統音楽を世界各地の音楽家たちが再構築した音源集『Kalab Mixed Myanmar #1』。リミックスというとDJがクラブ向けに作ったダンスミュージックを想像する方が多いだろうが、ここに収められているのは必ずしもダンストラックばかりではない。現代のエレクトロニックミュージックの担い手たちが、ミャンマー伝統音楽特有のリズムやメロディーに立ち向かった成果とでもいおうか。参加しているのはオオルタイチ&コムアイ、アサ・トーン、アンディ・オットー、プラブミ、エル・ブオ、バルダ、バリオ・リンド、CHURASHIMA NAVIGATORと、好事家にはたまらない顔ぶれである。
ARTISTS
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​Andi Otto
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​Barda
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​OORUTAICHI
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KOM_I
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Prabumi
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Barrio Lindo
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Asa Tone
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​El Buho
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CHURASHIMA NAVIGATOR

プロデュースを担当したのは、オリジナルなワールドミュージック/伝承音楽の発掘活動を行う日本人DJ、Shhhhh。エレクトリック・フォルクローレと呼ばれる南米発のムーヴメントをいち早く日本に紹介し、ベトナムはホーチミンのクラブ「The Observatory」でもレギュラーDJを務めるなど、世界を股にかけた活動を続けてきた人物だ。

 

本作の仕掛け人は、日本とミャンマーを拠点に活動するレコーディング・エンジニア、井口寛。近年ミャンマーの伝統音楽を録音し続けてきた井口は、ミャンマー北西部の少数民族ナガ族の文化も記録しており、ナガ族の巨大ドラム作りを記録した映像作品「ナガのドラム」は2020年の東京ドキュメンタリー映画祭でも上映された。

 

今回の『Kalab Mixed Myanmar #1』は、井口が2017年にリリースした『MUSIC OF BURMA』シリーズ4作品の収録曲が元になっている。ピアノ、ギター、ミャンマーの伝統的な木琴であるパッタラによる素朴な演奏と味わい深い歌唱は、各地の音楽家の手によってどのように生まれ変わったのだろうか。本作を完成させた井口とShhhhhにインタヴューを試みた。

(この取材記事は『Kalab Mixed Myanmar #1』に付属するライナーノーツの別ヴァージョンとなります)

 

 

――まず、今回の制作の経緯を教えてください。

井口「きっかけとなったのは、やっぱりコロナ禍ですね。(レコーディングやPAの)現場もないし、この時間を使わないともったいないなと思って。ミャンマーの音楽を用いて何か創作ができないかという気持ちも以前からありました」

――井口さんはこれまで現地の伝統音楽家とかなり密にやりとりしてきたわけですけど、彼らに対して刺激となるものを作りたいという意識もあったのでしょうか。

井口「それはありました。東南アジアの音楽シーンってタイだったらモーラムがあったり、カンボジアにはヒップホップがあったり、独自の盛り上がりがあるじゃないですか。でも、ミャンマーは民主化されたのが10年ほど前で、現代の音楽についてはだいぶ出遅れている。ミャンマーに新しい盛り上がりとなる一端を作れたらいいなという思いもありました」

――ミャンマーの音楽家の支援という意味合いもあるんでしょうか。

井口「単純に経済的なサポートというよりも、この企画を続けていくことで活動を紹介していくようなことができればとは思っています。そもそもこの企画を立ち上げてShhhhhくんに相談した時点では、まだクーデターも起きていなかったんですよ」

Shhhhh「そうだよね。去年(2020年)の5月ぐらいだから、コロナ禍には入っていたぐらい」

――そもそも二人はいつごろの付き合いなんですか?

井口「僕が(90年代から多くのイヴェントやパーティーが行われていた)青山のCAYで制作スタッフとして働いていたころですね。その当時はそれほど接点がなかったんだけど、ここ数年、Shhhhhくんが東南アジアで活動していると知って、おもしろいことをやってるなと思っていました」

Shhhhh「CAYでやっていたOVAというパーティーを下っ端として手伝っていたんだけど、そこで知り合ったのかな。あと、俺が在籍しているアオラ・コーポレーションというディストリビューターで井口くんの作ったミャンマー音楽の作品を配給していて、そこで再会した感じ。『ミャンマーの井口さんってあの井口くん?』って」

――Shhhhhさんがアジア各都市でDJをするようになったきっかけは何かあったのでしょうか。

Shhhhh「2013年ぐらいから『アジアがすごいことになってる』という噂をクラブ界隈の仲間から聞くようになって、なかにはバンコクやカンボジアに移住しちゃうやつも出てきたんだよね。アジアといってもかつてトランス系の人たちが集まっていたパンガン島みたいなビーチリゾートじゃなくて、都市の一部で何かが起きているらしい、と。それも移住した外国人やヨーロッパに留学していた現地の人たちがクラブを始めるようになった。そう聞いて興味を持っていました」

――確かにここ5、6年はアジアの各都市を回る日本人DJもかつてに比べると飛躍的に増えたし、各都市のDJが日本でやることも増えましたよね。

Shhhhh「あるとき『(ホーチミンのクラブ)The ObservatoryのレギュラーDJが東京に行くから、Shhhhhくんのパーティーでやらせてくれない?』と頼まれてね、(渋谷区神宮前のクラブ)bar bonoboでやることになっていたパーティーでやってもらったの。そうしたら俺のDJを気に入ってくれて、The Observatoryでやらせてもらうことになったんだよね」

――The Observatoryのパーティーはどうでしたか。

Shhhhh「当時はまだ自分のなかでもアジア=パンガン島みたいなイメージがあったんだけど、すごく都会的な感じで、それまでのアジアのイメージとはまったく違っていた。2000年代の日本でFUTURE TERRORやFLOWER OF LIFEみたいなローカルなパーティーが始まったころのことを思い出しました。お客さんも俺がかけているスロウでディープなダンスミュージックを知識として知っているわけじゃないんだろうけど、とにかく踊る。とにかく楽しむ。すごくピュアな感じがしました」

――なるほど。

Shhhhh「欧米からの移住者が独特の文化を作っていることにも驚いたしね。俺がThe Observatoryでやるきっかけを作ってくれたダン・ロウもキプロス人だった。フランス人もいたけど、リヨンの出身だったり。あと、スイス人も多いです。そこに俺も混ぜてもらったんだよね」

――ホーチミンには外国人がやってきて新しいスペースを作りやすい環境があるんでしょうか。

Shhhhh「そうだね。ホーチミンは外貨を積極的に入れようという政策をとっていることもあって、海外の企業がどんどん入っているんだよね。典型的なバブルの状態で、その恩恵を受ける形でクラブが次々にできている状況。だから、3年ぐらい前は『ベルリンの次はホーチミンだ』と言っているやつは本当に多かった」

――コロナ禍に入る直前までアジア各地でそういう状況が生まれつつあったわけですが、ミャンマーのクラブシーンの話はほとんど聞こえてこないですね。少なくとも日本にいるかぎりは。

井口「そうしたクラブはヤンゴンでもまったくないと思います」

Shhhhh「ヨーロッパからの移住者が入ってきて音頭を取らないと、なかなかそういうクラブはできないかもしれないですね」

井口「外部からの影響がないと、なかなかそうした動きは出てこないと思います。ミャンマーにもおもしろい音楽を作ってる音楽家はいるけど、あくまでも個人でやっていて、シーンになるほど盛り上がっている感じではないんですよ」

 

――Shhhhhさんはミャンマーの音楽に対してどういう印象を持っていましたか。

Shhhhh「サインワインとか基本的な楽器の作品は聴いているけど、それぐらいですよね。周辺諸国の音楽はある種の共通性を感じるんだけど、ミャンマーだけ独特すぎて。サインワインも楽器としてすごく変わってるよね」

井口「タイのモーラムなんかは特定のフレーズを繰り返して生まれる高揚感があるけど、ミャンマーの伝統音楽の場合、打楽器奏者も歌うように演奏する感覚があって、リズムの高揚感を追い求めるものではないですよね」

――僕も最初はあの独特のリズム感覚がとっつきにくかったんですよね。グルーヴとは違う発想でリズムが構築されている。でも、聴いていくと、徐々に身体に沁みてくるような感覚がありました。

Shhhhh「ミャンマーのピアノもすごく独特だよね」

井口「ミャンマーの伝統音楽ではサインワインや竪琴と並んでピアノが重要な楽器なんです。第二次世界大戦より前までは西洋から入ってきたピアノを独自のピッチにチューニングし直して使っていたようです。今は西洋と同じチューニングのピアノを使っていますが、それでも音源をクラシックの音楽家に聴いてもらうと強烈な違和感を感じるようです」

――今回の作品の場合、西洋とは明らかに異なるリズムや音階を持つミャンマーの伝統音楽を現代のリズム感覚で再構築するところに面白みがあると思うんですね。

井口「それはアーティストからのフィードバックを聴いて感じたことでもありました。あれだけ自由なリズムをあえて反復するリズムにするというのは、ある意味でギブスをつけるようなものだと思うんですよ(笑)。でも、エル・ブオの曲なんかは彼の思い描いているミャンマーのイメージがはっきり描かれている。あの国のイメージをどう捉えるか、その点はリミキサーによってだいぶ違うと感じました。(オオル)タイチくんたちはミャンマー音楽の持つ自由なリズムを活かすために四つ打ちにしなかったわけで、多様なアプローチが試みられていますよね」

――制作はどうやって進めていったんですか?

井口「ミャンマーで作った『MUSIC OF BURMA』シリーズ4作品のパラデータを全部アップロードして、そこから好きなものを選らんでもらいました。複数のサンプルを選んでもいいし、一種類だけもいいと」

――なるほど。だからタイチさんとコムアイさんの曲は複数のサンプルが使われているんですね。

井口「そうですね。結果、同じものを使っている人もいて。やっぱり歌はリミックスしやすかったみたいです。アサ・トーンとプラブミ、バリオ・リンドが選んだ“Ka Chey There”(『MUSIC OF BURMA Virtuoso of Burmese Guitar ~Man Ya Pyi U Tin and His Bama Guitar~』収録)という曲とか」

――Shhhhhさんはこの作品をプロデュースするにあたって当初考えていたことはあったんですか。

Shhhhh「リミキサーをセレクトするにあたっては、民族音楽を意識しながら現在進行形の潮流を引っ張っているミュージシャンのことはすぐに思い浮かびました。バリオ・リンドがやってるベルリンのレーベル、シカ・シカ周りのDJ、沖縄のCHURASHIMA NAVIGATOR。コムアイがやってるYAKUSHIMA TREASUREの作品は彼女に音源を送ってもらった段階でめちゃくちゃ感動しちゃって、今回は絶対にお願いしたいと考えていました」

――今回の作品は、リミックス集といえども、いわゆるダンストラック集というわけではないですよね。現代のダンスミュージックやエレクトロニックミュージックの方法論を用いて、ミャンマーで生まれた伝統音楽を各自で解釈し、エキゾチシズムも含めた自分のイメージをそこに加えながら、現代の音楽として構築していく。各音楽家がそういうことをやっている。

Shhhhh「Ableton LiveみたいなDAWを世界中誰でも使えるようになって、なおかつ同時進行で自国の民族音楽を発見しつつある。そういう時代の音楽という感じはするよね。フォルクローレって決して明るいものだけじゃないとも思っていて。日々の暮らしが辛いから、ハレの日にみんなで盛り上がるものでもあるわけじゃない? タイチくんとコムアイのリミックスはまさにそういう感じがするんだよね」

――プラブミやアサ・トーンのメンバーのひとりはジャカルタ出身ですよね。

Shhhhh「そうそう。プラブミとアサ・トーンはどうしても入れたかった。アサ・トーンが去年出したアルバム(『Temporary Music』)はガムランが入ったスロウテクノという感じですごく好きでね。あのアルバムはマシュー・デヴィッドがやってるレーベルで、サム・ゲンデルなど西海岸の現行ビートカルチャー~ニューエイジの総本山であるリーヴィング・レコーズから出ているんだけど、西海岸の瞑想系・スピリチュアルな感じが入っているリーヴィングから出たことは大きいんじゃないかと思っていて。アサ・トーンがやってくれたリミックスも四つ打ちといえば四つ打ちなんだけど、明らかにどこか新しい。ニューエイジ・リヴァイヴァルの雰囲気もあるしね」

――四つ打ちのキックによって全体を支配するような、ダンスの機能性だけを追求したトラックは今回のアルバムにまったく入っていないですよね。四つ打ちのトラックにしても、ミャンマーのリズムをどう解釈するかという試行錯誤の跡が窺える。

Shhhhh「スロウテクノやエレクトリック・フォルクローレ以降のBPM80~90のものって、(ハウス~テクノのスタンダードなテンポである)BPM120のトラックよりも上モノを入れやすいだよね。ぎりぎり踊ることができて、揺れるだけでもちょうどいい。なおかついろんな音楽のエッセンスを入れやすい。そういう感じはあるよね」

――バルダのリミックスは“Burmese Piano Improvisation”、つまりピアノの即興演奏が元になっているわけですが、リズム的にかなり揺れている演奏をリミックスするのはかなり大変だったんじゃないかと。

井口「そうですね。でも、バルダに限らず、ほとんどのリミキサーがリズムのことは気にせずエディットしちゃってる感じがします。歌とリズムがパッと聞き全然リンクしていないという。アサ・トーンもガチガチに四つ打ちにはめているわけじゃないけど、十分気持ちがいいですよね」

Shhhhh「そこが新鮮なのかもしれないね、アサ・トーンやバルダのトラックは。リズムが揺れていても気持ち悪くないし、ズレや余韻がグルーヴを作り出していくという」

 

――この音源集がミャンマーの音楽家たちにどう受け止められるのか、すごく興味があります。

井口「伝統音楽の担い手のなかには原理主義的な人もいるから、当然バッシングもされると思います。もちろん覚悟のうえで作ってるわけですけど」

――ミャンマーの伝統音楽は、一部の例外を除いて今回のように別の文脈で捉え直される機会もなかったわけじゃないですか。今回みたいな形で外界と接触することで、どのような反応を巻き起こすか。もちろん外界との接触が少なかったからこそ守られてきた魅力もあるわけですが。

井口「自分は伝統音楽を録音する仕事を通して、『原型』を記録する作業をずっとやってきたと思っているんですね。いわば原理主義的な音楽家と一緒にやってきた。でも、(ミャンマーの少数民族である)ナガの村に行ったときに文化は日々アップデートされるものだと感じたんです。伝統の巨大ドラム作りにしても、日々の生活様式にしても時代に応じて変化している部分がある。自分自身、文化は生きていくために変容し続けるという考え方になってきたんです」

――なるほど。井口さんもここ数年、ミャンマーの「伝統」に向き合ってきたからこそ、今回のアルバムのような新しいクリエイションに向かえているところがある。

井口「そういうところはあると思います。伝統を守るもの、文化をアップデートするもの、どちらもあっていいと思うんですよ」

――『Kalab Mixed Myanmar #1』というタイトルが付けられているわけですが、今後シリーズ化していくのでしょうか?

井口「そうですね。ミャンマーの流行歌のことをカーラボーというんですが、カーラボーとラボラトリーを混ぜて『Kalab』という造語にしたんですね。なので、『Kalab』をプラットフォームにして実験的な試みをしていきたいと思っています。リミックスじゃなくてもいいかもしれないし、ライヴでもいいかもしれない」

Shhhhh「野外イヴェントでサインワインとか演奏してもらったらおもしろいと思うんだよね。やっぱり生で演奏を観たいですよ」

​PRODUCER | Shhhhh
(El Folclore Paradox/ The Observatory) DJ/東京出身。

オリジナルなワールドミュージック/伝統伝承の発掘活動。フロアでは民族音楽から最新の電子音楽全般を操るフリースタイル・グルーヴを発明。 執筆活動やジャンルを跨いだ海外アーティストとの共演や招聘活動のサポート。2018年秋よりベトナムはホーチミンのクラブ、The ObservatoryのレジデントDJに就任。 ミャンマー音楽のリミックス盤『Kalab Mixed Myanmar #1(Produced by Shhhhh)』(Rollers)が2021年秋に発売。

https://soundcloud.com/shhhhhsunhouse https://twitter.com/shhhhhsunhouse https://www.facebook.com/kanekosunhouse https://jp.residentadvisor.net/dj/shhhhh
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〈クレジット〉
プロデュース|Shhhhh

マスタリング&カッティング|Stefan Betke (scape mastering)

イラスト|山口洋祐

デザイン|汐田瀬里菜

ライナーノーツ|大石始

企画・制作|井口寛

​〈販売〉
Digital

bandcamp

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